イギリスから出た1996年デビューの「Silver・Sun」(シルヴァー・サン)は、今にしては、とても懐かしいパワーポップのバンドだ。というのもシルヴァー・サンは、もう活動継続も再結成もできないから。
シルヴァー・サンのギターでヴォーカルのジェームズ・ブロード(James・Broad)が2020年に逝去。享年50で、早すぎる死が悔やまれる。ジェームズは、同年に末期癌(がん)が発覚し、ターミナルケアを受けていることを公表。「あと数年は生きられる」と医師から告げられていたらしいが、病状が急変して急逝となる。私は、シルヴァー・サンを昔から知っていたので残念だった。
シルヴァー・サンは、イギリスはイングランドのロンドンから出た4人組。1995年の結成で、もとは「Sun(サン)」というバンドであったが、どうやら同名の他バンドがすでにあったようで重複を避けるべく、後にバンド名を「Silver・Sun(シルヴァー・サン)」にする。新たに足した「Silver(シルヴァー)」は、シルバー世代(高齢者世代)やシルバーシート(高齢者優先席)など、「シルバー」=「高齢者」の意味に思えるが、これは和製英語であり、英語の「Silver(シルヴァー)」に本来は「高齢者」の意味はない。「シルヴァー」は「銀」の意味。またこの語は英米では人の名姓によくあるもので、英米人にはシルヴァーと呼ばれる人は多いのである。
それでシルヴァー・サンは、彼らが好きな「Beatles」(ビートルズ)がデビュー以前に「Silver・Beatles」(シルヴァー・ビートルズ)のバンド名であったことから、自分達も「Silver・Sun(シルヴァー・サン)」にした。そして、ビートルズのシルヴァー・ビートルズは、イギリスの海洋冒険小説、ステーヴンソン(Stevenson)の「宝島」(1883年)に出てくる海賊のジョン・シルヴァー(John・Silver)の姓から取っている。
シルヴァー・サンのデビュー・アルバム、1st「Silver・Sun」(1997年)は、メジャーの「Poiydor」(ポリドール)からリリース。本作は何と!当時すでに売れっ子であったナイジェル・ゴッドリッチ(Nigel・Godrich)がプロデュース。新人バンドのセルフタイトルの1枚目からナイジェル・ゴッドリッチを使うとは、レコード会社のシルヴァー・サンに対する並々ならぬ期待の程が感じられる。確かに1st「Silver・Sun」は、ナイジェル・ゴッドリッチのプロデュースらしく、M1「Test」から細かな音が入るエレクトロニカ・サウンド、全体にローファイ系のデジタルロックのようでもある。
シルヴァー・サンの1stを名盤と激賞する人は多い。ナイジェル・ゴッドリッチは1997年の時点で、「Radiohead」(レディオヘッド)の「OK・Computer」(1997年)のプロデュースでヒットを出し、成功して有名になった時の人であったし、パワーポップ系でもベテランで再デビューの、元「Jellyfish」(ジェリーフィッシュ)の「Jason・Falkner」(ジェイソン・フォークナー)の2nd「Can・You・Still・Feel?」(1999年)など、ナイジェル・ゴッドリッチのプロデュースが後に見事にハマっていたのである。
シルヴァー・サンは1996年デビューということもあり、当時は、94年デビューのアメリカの「Weezer」(ウィーザー)がパワーポップで爆発的に売れていたので、シルヴァー・サンは「英国版ウィーザー」のようなレコード会社からの強力プロモーションで、それが私にはイマイチだった。確かに、フロントに立つヴォーカルのジェームズ・ブロードは、黒縁メガネで内向的なオタクっぽくて、ウィーザーの主要メンバーのリヴァース・クオモ(Rivers・Cuomo)に見た目は似ていたけれど。「ポップ・オタクによる、ひねくれ全開パワーポップ」のような言われ方もシルヴァー・サンは昔はよくされていたが、よくよく聴いてみると、「Beatles」(ビートルズ)や「Beach・Boys」(ビーチ・ボーイズ)や「Cheap・Trick」(チープ・トリック)が好きな人達がやっている案外、素直な正統派パワーポップだった。
シルヴァー・サンの売り出し方で、日本盤CDの帯、2nd「Neo・Wave」は、「まだまだ行ける!グリグリ眼鏡」。ジェームズ・ブロードのことを「グリグリ眼鏡」って言うな(怒)。日本企画のシングルB面集「B・is・for・Silver・Sun」の帯は、「東京だよ、シルヴァー・サン!」。これは島倉千代子の演歌「東京だョおっ母さん」(1957年)に掛(か)けた日本の人にしか分からないお笑いネタで(苦笑)、日本での中途半端にフザケたプロモーションもシルヴァー・サンは気の毒だった。
そういったわけで、シルヴァー・サンに関しては「英国版ウィーザー」とするような、デビューの1枚目からプロモーションが「悪手」だと思うのだが、私が好きなアルバムは日本独自の企画盤「You・are・Here」(1997年)である。アルバム・ジャケットは、シングル「Lava」(1996年)のそれの背景だけ「富士山、新幹線、寺院」に変えた日本仕様のパロディ・ジャケット。本作は初期シングル曲を集めたベスト盤的な内容である。後にシングルB面を集めた「B・is・for・Silver・Sun」(1997年)の企画盤も、シルヴァー・サンに関してはリリースされている。
編集盤「You・are・Here」で何よりもよいのは、M1「Last・Day」。これはパワーポップの名曲だ。その他、M2「Lava」、M5 「Captain」あたりも良い。ヘヴィーなギターなのに、なぜかポップ。ヴォーカルの声もコーラスの厚みもよいし、演奏は上手いし、曲もいい。総じて英国のバンドは優れているの好印象だ。また本作には収録されていないが、いかにもカタコトな日本語で歌う(苦笑)、「Tokyo・E・iketai」=「東京へ行きたい」(?)は、シルヴァー・サンの日本のファンなら必聴かも。
シルヴァー・サンは1st「Silver・Sun」(1997年)、2nd「Neo・Wave」(1998年)の2枚のアルバムを出した時点でまさかの、メジャーのポリドールから契約を切られてしまう。その後、バンドは空中分解状態になり、7年間のブランク(空白)を歴て、ジェームズ・ブロードのみの制作でシルヴァー・サン名義で3rd「Disappear・Here」(2005年)をリリース。
しかし、それにしても私には、ジェームズ・ブロードのシルヴァー・サンはプロモーションの売り出し方が悪手で、デビューの最初からコケたマイナス・イメージの悲壮感が拭(ぬぐ)えず。3rdアルバム以降、私はシルヴァー・サンは、ほとんど聴いていない。



